例会報告
小宮 一慶氏

【第585回9月大会】

 
日 時 : 平成18年9月25日(月)
場 所 : 京都全日空ホテル
講 師 : 小宮 一慶 氏 (株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役)
テーマ : 「勝ち組経営者の必勝法」




第585回9月大会は(株)小宮コンサルタンツ代表取締役の小宮一慶氏をお招きし、京都全日空ホテルにて開催されました。

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◆月曜日の日経新聞、読んでますか?
月曜日の日経新聞の中に経済統計欄がありまして、これは実はあまり読まれていないと思います。
この中にもたくさん企業経営者の皆さんがいらっしゃると思いますが、たぶんあまりお読みになっていないだろうと思います。これ実は非常に重要で、何故重要かと申しますと、物価指数が載っているからです。物価指数の中には、企業物価指数、消費者物価指数、輸入物価指数の三つがあります。
企業物価指数ですが、現在前年比 3 %程度の上昇が見られます。これはガソリンを中心とした資源高などが影響していると考えられています。そして、輸入物価指数ですが、こちらは、ガソリン、鉄などの資源類の上昇を受けまして、 3 年前と比較して約 3 割程度の大幅な上昇傾向が見られます。しかし、消費者物価に目を向けますと、前年比で約 0.2 %程度しか上昇しておりません。輸入物価指数は前年比約 17 %程度の上昇ですので、あまり、ものの値段に跳ね返ってきてはいないと言うことが考えられるのです。そして、これは非常に考えさせられるところです。例えば、原油価格ですが最近の高騰を見ていますと、 2000 年に比べて約 4 倍になっています。しかし、 1973 年のオイルショック時も実は原油価格は 4 倍に上昇しました。そしてそれは消費者物価でみますと20%の高い上昇をもたらしました。では、なぜ、現代はオイルショックの時と同様に 4 倍程度原油が上昇しているのに、最終消費にあまり影響が出てきていないのか。

◆タクシーは運転手さんで走っている?
タクシーの初乗りで考えてみてください。私が大学生のころですから 40 年ぐらい前でしょうか。そのころと比べても、原油価格が 4 倍になっていても、タクシーの初乗りはあまり上昇していません。
これらはいったいなぜなのか、ようするに、全ての業界で供給過剰に陥っているからです。
今のタクシーは運転手さんの根性で走っているのです。

◆まねをしていれば
高度成長時代のように、右肩あがりの経済の中では、ある意味、人の真似をしていれば何とか稼ぐことができましたし、また勝てるような場合もあったと思います。しかし、今はそうではありません。
『差別化』がなければ今からの供給過剰経済では勝つことはできないと思います。

◆QPS ?
皆さん QPS って言葉をご存知でしょうか?
Q は「Quality」、P は「Price」、S は「Service」 を意味します。勝つ経営ということですが、 P で言うと、他の企業よりも価格が必ず安いと言うことは、これだけでも勝てると言うことになります。でもつらい。 Q で勝負をすると、品質、価格、その他、他社とまったく違う。これも勝てる。しかし、この供給過剰の経済にあって品質と、価格で他社と勝負するのは非常につらい。ではどうして勝っていくかです。
私は、これは S 、つまりサービスで勝負をしていくべきではないと思います。

◆お客『様』
皆さんの会社の中では、『お客様』と言う言葉をお使いですか?
私が訪ねたことのある会社で、会社の中では『お客さん』と言う言葉を使っている会社がありました。しかし、壁には『お客様』第一と書いてある。でも実際には「様」ではなく『さん』付けで呼んでいる。実は、こうした細かな点を改めていく事が今からの企業経営では求められます。
日本のようなに、世界でもトップクラス位置するサービスの質の高さを誇る国で勝ち残るには『キメ細かさ』を意識して行っていくことが重要になってくると思っています。

◆変わったディーラー
神奈川県 のある自動車販売のディーラーに取材に行ったことがあります。その時のことを、このキメ細かさという点でお話したいと思います。そのディーラーにそもそもなぜ取材に行ったかと言いますと、ある雑誌の企画がきっかけでした。取材の前にいただいた話では、『営業をしないのに車が売れる』『だいたい一人の営業マンで他のディーラーの 2 倍の車を売っている』などとちょっと常識では考えられない、私に言わせれば、【この話本当かな?少しいい加減ではないかな】という印象を受けたほどです。

◆何が違ったのか?
タクシーで雑誌の担当者と一緒にそのディーラーに行ったのですが、最初に驚いた事は、突然女性従業員が私たちのタクシーめがけて飛び出してきたんです。私達をお迎えに。
最初は有名経済誌の取材だから、特別にこんなことをしてくれているのだろうと思いました。
中に入って取材を開始していると、さらに驚いた。なぜなら、先ほど、店内から従業員が外に出てのお迎えを、私だけではなく他のお客様全てに対して行っているのです。私が行ったのは冬の寒い日であったにもかかわらずです。

◆子供の世話
そして、また驚くことがありました。私もそうですが、車を買いたいと思ってディーラーに行ったときにどうしても子供を連れて行かなければならない時って多いと思います。そして、大部分のお父さんお母さんは、子供を試乗車に乗せたくないですね。これはやはり慣れない車に自分の子供を乗せたくないというのが大きいと思います。しかしですね、ここのディーラーが他社とは違うところは、子供の面倒を専任で見てくれる女性従業員がきちんと配置されています。安心して子供を預ける環境が整っているから、心置きなく、商談や、試乗が出来るのです。

◆なぜそこまでするか?
しかし、普通に考えてみれば、子供の面倒を見る専任従業員を抱えるだけで、人件費のコストが非常にかかってしまう。その辺はいったいどうなっているのか?私の率直な疑問を、ディーラーの会長にぶつけてみました。
会長のお言葉を借りますと、「子供は将来、車買ってくれる」ということです。
これを示すデータがあります。このディーラーの売り上げの中で、リピーターが占める割合が、なんと 85 %を占めています。つまり、以前、買ってくれたお客様が再び車を買ってくれているということです。またこれも凄いことに、売りあげの約 10 %が既存のお客様からのご紹介で上げていることです。
ここまでいくと、本当に完璧なぐらいの顧客対応があって、今があるのだということを実感いたしました。

◆社員教育はどうなっているか?
また、こんなすばらしいサービスを展開するための社員教育はどうなっているのかという点もお話させていただきます。まず、このディーラーさんですが、支店が 20 ほど 神奈川県 内にあります。そしてなんとそのうち二つに『茶室』を完備しています。これは茶の湯を嗜むことによって、『立派な社会人』としての教養を養うと言うことです。そして、本を読むことを薦めているということです。
月に一回程度、会長が自ら読んで良いと思った本を社員に薦めて読ませています。しかし、ただ読めと言ってもなかなか読んではもらえません。その辺は、きちんとしていて、読んでレポートを書いた社員に対して一律に 3000 円のお小遣いを支給しているそうです。社員にとって見れば、良質な本が読めて、お小遣いをいただける。こんなありがたいことはありません。社員も喜ぶ社員教育をしていました。

◆情熱と徹底と
やはり、色々な制度を作ったとしてもそれを動かしていく「人間」がきちんとしていなければなりません。そういう意味で、このディーラーさんでは情熱をもってよい会社を作っていこうという経営者の魂を感じることができました。また、その情熱に裏打ちされた徹底した教育と言うものもが、はっきりと感じ取ることができました。

•  最後に、傲慢さをもった会社は遅かれ早かれ必ず潰れます。

感謝の気持ちを持って企業経営に当たる大切さ、これは、今からの経営に求められる『細やかさ』の経営なのではと思います。

そして、このような高い席から、私よりも年配の皆様にこのような生意気なお話をさせていただきました。言葉足らずな面もありましたが、これからも謙虚に頑張りたいと思います。

ご清聴ありがとうございました。