例会報告
橋本 久義氏

【第580回4月大会】

 
日 時 : 平成18年4月17日(月)
場 所 : 京都全日空ホテル
講 師 : 橋本 久義氏 ( 政策研究大学院大学 教授 ・ 埼玉大学教授 ・ 龍谷大学客員教授)
テーマ : 「中国でできること・できないこと」











第580回4月大会は政策研究大学院大学教授の橋本久義氏をお招きし、京都全日空ホテルにて開催されました。

■ 中小企業の魅力

 本日は、皆様お招きいただきましてありがとうございます。私は、通商産業省(現経済産業省)に入省しまして、主に中小企業を見てまいりました。
 この19年間に約2900社あまりの中小企業に足を運びまして、現場を見てまいりました。その中で感じたのが、中小企業の社長は、歌がうまくて、説得力があって、非常に魅力的なんですね。どこへ行ってもそうなんです。一体どうしてかと考えたんですが、当然なんです。どうしてかというと、大企業には、一般に言いますと、何もしなくても入社したいと人間がやってくるんです。しかし、中小企業では普通やってきません。一時、不景気のあおりを受けて『昔から憧れていて、入社したかったんです』とか言って入社したいとやって来るものもいるようですが、どうしても怪しい。一般に知られていないような自分のところになぜやって来るんだよと。たいがい、中小企業に勤めている、勤めようとしている人間は『偶然』やってくるんです。だからこそ、社長の魅力がないといけない。魅力がなかったら、会社が持たないんです。『偶然』入社した社員をつなぎとめておくためには社長個人の『徳』が必要なんですね。そして、往々に中小企業の経営者にはそれがある。言ってみれば必然なんですが。

■ 中国はブラックホール

  最近の景気ですが、はっきり言って良いです。工作機械などを中心に、中国向けの輸出に支えられ、非常に景気が良い。中国の景気過熱によって、仕事を奪われたと考えている方が今日も会場にいらっしゃるかもしれませんが、どうでしょうか?実際、中国に仕事を奪われている面もありますが、逆に仕事が増えている方もいらっしゃるのではないでしょうか?しかし、増えているとあまり大きい声で言っている方は少ないと思いますが。しかし、はっきり言って、国内的にみれば、中国から受けている影響は差し引きゼロだと言えます。日本はほとんど、全体でならして見れば、ほとんど影響を受けていない。強いて言えば非常にいい影響を受けているんです。欧州や、アメリカを見てください。本当に大きな打撃を受けています。フランスやドイツの失業率の問題は、この前暴動とかにもなりましたが、非常に大きな影響を中国から受けています。世界中から、中国に生産拠点が移ってきています。そして、それが、欧米では社会不安を起こしている。日本はそんなことありませんね。
  ここで、企業というものを考えてみてください。欧米人にとって企業とは何でしょうか?簡単なんです。『利益を生み出すマシーン』なんですね。だから、売れなくなったら、直ぐに撤退する。良い設備があったとしても、利益を生み出さなかったとしたら、売るか壊すかなんですね。しかし、日本人は、一体どう考えるんでしょうか?日本人は、企業を『自分の息子』と考えてるんです。だから、利益が上がらなくなっても欧米人のように直ぐに会社をやめてしまうということがないんです。どうするかと言えば、息子なんですから、危なくなったら、個人の資金を投入するんですね。だから、社会的にみたら淘汰されるであろう企業が、日本では生き残ることが出来るんです。これが、日本が中国のブラックホールに飲み込まれない理由なんです。なぜかといいますと、欧米は中国に出来ることは直ぐにやめてしまい、違う分野に投資する、そうやってポートフォリオ的経営を致します。しかし、最新の機械を作るときで考えていただけましたら分かるんですが、いくら、心臓部は欧米の最新の技術力のものを持っているとしましても、操作するところの塗装がはげてしまったとか、メッキがはがれてしまったとかで使えなくなってしまう。それが今の欧米の現状だと思います。しかし、日本はこういった塗装やメッキ、鋳型などが先ほど言ったように中小企業の高い技術力に支えられています。だからこそ、最新の工作機械なんかでは欧米のように中国のブラックホールに巻き込まれず、生き残っているわけです。ちょうど、ブラックホールの入り口で吸い込まれないで静止しているようなものです。

■ 中国のビッグマネー 華僑の存在

  世界には、外国から多額の資金が入ってくる民族が二つあります。一つはイスラエルのユダヤ人、そして、もう一つが中国人・華僑です。この華僑というのは非常に資金力がある。アジアの財閥には多数の華僑が名を連ねています。その華僑たちは後継者をほとんど、アメリカの大学へ留学させています。これは、まあ、アメリカの永住権を獲得するのも一つの目的で、政治的に迫害された時などに、アメリカに逃げるといったことを考えてのことです。そして、アメリカに留学した彼らの後継者は、否応なくアメリカ式の経営を学ぶわけです。それは先ほど言ったようなポートフォリオ的経営です。これは、ホリエモンが良い例ですが、必要なくなったときには、会社ごと直ぐに売却したり、欲しい企業があったら直ぐに買収するといったようなやり方です。華僑たちが会社を後継者たちに譲ると、今までの自分たちのしてきた経営とは全く違った、会社の中をワイシャツや、Tシャツで歩くような経営になってしまったのです。そこで、引退した華僑たちが黙っていられないんですね。自分の創った会社ですから。ここで、彼らがとった行動が、まあ、祖国・中国のためといったような方法で、後継者たちに譲った自分の財産を奪い返すんですね。それも莫大な金額を。『祖国中国の若者のために使いたいのだ』とか言って。そうやって、後継者たちから奪い返した資金を、中国大陸に一気に投下するんですね。規模の経済ですが、こういった思い切ったことを華僑というのはしているんです。そういった資金が中国経済に非常に大きな影響を与えているんです。もちろん、全てが成功しているというわけではありません。だいたい、10社に8社は失敗に終わっているのが現状だと思います。

■ 日本と中国の今後

  日本と中国とは、"中国が風邪を引くと、日本は脳梗塞になる"といった関係です。どういった意味かといいますと、例えば、風邪から肺炎が起きる場合があります。肺炎は、後遺症がありません。死に至る場合もありますが、治る時はパッと全快してしまいます。しかし、脳梗塞はどうでしょう?奇跡的に全快する場合もありますが、たいていの場合必ず、後遺症が残ります。今の日本と中国の関係とはこういったものです。いつの間にか、"出来ちゃった婚"のように子供ができてしまった。そして、いつも夫婦喧嘩をしている。しかし、お互いを考えないと、生きていけないような関係なんですね。後遺症が残ると申しましたが、だからこそ、切っても切れない中国を、お互い思いやり、助け合いながら生きていかなければならない。私はそういう風に考えております。箸折ったところもございますがありがとうございました。
 

(同志社大学・飯田哲史 )