例会報告

第603回5月大会

 
日 時 : 平成21年5月27日(水)
場 所 : 京都ブライトンホテル
講 師 :上原忠晴氏(京都府警警察本部 組織犯罪対策第1課 警部補)
テーマ : 「危機管理意識を高めよう!〜反社会的勢力から経済人クラブ会員を守る特効薬〜」 













「私先月末京都府警をクビになりしましてね。現在は Y 組の顧問をしております。今日はお金集めに来たつもりです。皆さん、是非今日持ってきた麻薬を買って帰ってくださいね」。

このような出だしで講演の幕が開けた。まだ会場は上原氏の言葉が冗談なのか本気なのか分からない。

「こんな感じで皆さん、暴力団に脅かされたり騙されたりして、泣き寝入りしてますよね。今日は、そんなときに少しでも役立つ、とっておきの対策をお話したいと思います」。

この言葉で会場の空気は変わり、一気に安堵感と笑顔に包まれた。

講演というのは、最初の「つかみ」、そして、「テンポ」がとても重要である。そういう意味で、今日の会場は、早くもこのインパクトのある「つかみ」で、すっかり上原氏のテンポに乗っけられた。「今日はなんだか面白い話が聞けそうだ」――こんな思いが会場に立ち込めたと思ったのも私だけでないだろう。

しかし、よくよく考えてみればそれもそのはず、実はこの上原氏は、 1992 年の暴力団対策基本法の制定以降、様々な講演にひっぱりだこの身なのである。講演先は、洋の東西を問わず、東奔西走、またその対象も、警察庁・地方自治・民間企業 etc ・・・など守備範囲は実に幅広い。聞くところによれば刑務所にまで足を運び講演をしたことがあるという。

余計なお世話だと思うが、この「技」を持ってすれば、冒頭の冗談がいつ冗談でなくなっても困らないのではないだろうか(笑)。

閑話休題(それはさておき)。今日の話のキーワードは2つあった。「青のパトカー」「暴力団対応」である。ちなみに、上原氏のお話は、テンポが良いだけでなく、話題の端々に「笑」のエッセンスがちりばめられている。これも「私は日本発とか京都発というのが好きなんです」という上原氏なりのプライドがなす技なのであろう。

それでは、前置きが長くなったが、以下、話の要旨を簡単にプレイバックしてみたい。


青のパトカー

「アメリカのパトカーのサイレンって何色ですか?」

答えは、当然「赤」ではない。「青」である。なぜか。

「青には人の気持ちを抑えさせたり、冷静にさせたりする効果があるんです」

言われて見れば確かにそんな気がする。自転車の駐輪場など街の中で、やたらと最近「青」の電灯を見ることが増えた。何でも、上原氏の提言によって、現在、新名神高速道路(スピード違反防止)や大阪の百貨店のイルミネーション(ひったくり禁止)、また、家の泥棒対策用の電灯など、私たちの生活のあらゆる面に、次々と「青」の導入が進められているとか。

また、これは余談になるが、上原氏はプライベートでも、この「青」がどれだけ効くか試されたという。その結果、青色の電灯のもとで、食欲もなくなるということが分かった。メタボ注意報や警報が鳴っている人にとってこれは1つの朗報なのかもしれない(笑)。ぜひ明日から試されたい。上原氏は続ける。

「日本のパトカーも全部青色のサイレンにしたら良いんです」

現在舞鶴市や亀岡市で実施(検討)中のようだが、上原氏のアジテートにより、日本中のパトカーのサイレンが青くなる日もそう遠くないのかもしれない。


「坊」主団と「暴」力団

「私は坊さんに説教したことで有名になったんです」

事の経緯はこうだ。今から3年前、比叡山延暦寺に対して、指定暴力団である 口組から歴代組長の法要式典のために法要の中では最高級とされる「特別永代回向」の要請があった。

この情報を事前に察知した滋賀県警察は「組織の権力誇示と香典名目の資金集めに利用される」として法要の中止を要請。しかし、延暦寺はこれを「単なる宗教の行事」として拒否、 2006 年 4 月 21 日 、延暦寺内阿弥陀堂において、この行事は予定通り実施された。ところが事の顛末としては、後日、延暦寺はマスコミに対し急遽「次からは暴力団の法要は拒否したい」とのコメントを発表するが、覆水は盆に返らず。世論の批判を避けられず、翌月、幹部全員が責任を取って総辞職をした。

話はここからである。この一連の騒動を受け、何とか上原氏は京都・知恩院など京都のお寺の集まりから、同じ轍を踏まないための対策講座をしてほしい、とのラブコールを受けたのである。テーマは「組葬を断る勇気を」。結果、上原氏は、 18 番のロールプレイング(元祖?)などを駆使しながら、本来、説法をする側の僧侶たち 50 人に、何と説教を施したのだという。「坊」に「暴」対策である。

ちなみに、このニュースは 800 ものお寺が加盟する京都府仏教連合会にも瞬く間に伝わり、今や他都道府県にもその効果(問題意識の共有)は及んでいるという。上原氏の力恐るべし、である。


心の防犯グッズ

「今日の暴力団は知能派。経済にも詳しい。会社名や見た目だけではもはや判断できません」

現在の暴力団の裏資金は約2兆円(警察庁発表)と言われる。ちょうど先の定額給付金と同額であると言えば、その規模がいかに大きいか分かっていただけるだろう。そして、その調達方法はすべて、組長以外の全組員から毎月集められる「共済運営費」(昔は「上納金」と言った)。これを労働ではない方法で調達しなければならないのだから、1万円を作るために、当然あの手この手のことが行われるのは想像に難くない。

しかし、である。あくまでこの国は法治国家である。一般国民には、「納税」「教育」「労働」の三大義務も課されている。したがって、あくまで許されないことは許してはいけない。

例えば、上原氏の言う、エセ同和団体やエセ右翼団体から本が送られてきても、絶対に買ってはいけない。本そのものの価値云々ではなく、暴力団の資金集めに与してはいけないという意味だそうだ。

「“本は本屋さんで買うように”と京都府警の上原さんから指導を受けています。そう堂々と言ってやってください。“街宣車送りつけるぞ”と言われても、絶対買ってはいけませんよ。1円でも払ったら、その時点で負けです」

上原氏は最後こんなメッセージで締めくくった。

「「い」、いつも心に勇気を。「の」、ノーと言える勇気を。「ち」、小さなことでも相談する勇気を。つまり、「命」を大切にするためにも、小さいことでも一人で抱え込まないようにしてください。そのために私たちがいるのですから」

正直者がバカを見る時代と言われて久しい。しかし、やはり、善は善、悪は悪である。いたちごっこかもしれないが、正義が負ける社会を作ってはいけまい。

上原氏の挑戦はこれからも続く。しかし、そんな上原氏のお世話にならないことが、我々にとって最も大事である。

備えをあれば憂いなし。今日のお話はきっと「心の防犯グッズ」になったに違いない。


(参考)暴力団追放センター:075−451−8930、075−451−6888 

 
【 文章:杉岡 秀紀 】